この塾を中心に据えられた「ヤチダモの大テーブル」は、遠く北海道からやってきました。
繊細に刻まれたその木目からは、百年近い時を生きていく中で、並々ならない苦労や力強い生きざまを感じ取ることができます。
「ヤチダモ」は、高さ30~40 mにまで成長するものもある高木です。まるで天を目指すかのように、まっすぐと伸び、その立ち姿はどこか神々しく気高さを感じさせます。製材しても、糸のように細い「糸柾」と呼ばれるまっすぐな木目が、迷いなくすっきりと伸びていることから、見るものにどこか観音像のような包容力と崇高さを与えます。
ヤチダモのヤチとは「谷地」のことを指し、河川などに沿った傾斜のある場所で育ちます。地下深くに根をしっかり張ることからも、土壌の落盤や土砂崩れを防いでくれた守り神のような存在であったのでしょう。古くからアイヌ民族を中心として、崇高な存在、そして生活の中での有用な材料として、乱伐をされることもなく、人々との関わりを絶やさずに共生してきました。材としては硬質で粘りがあり、力を加えてもなかなか折れずにたわむ性質があるため、命を守る住居の建材や丸木舟として使われることからも、どれだけ人々の信頼が厚かったのかが伺えます。
また、その木目の美しさからか、ヤチダモは女性像として、神話の中で語られることも多く、優しい雰囲気でありながらも凛としたストレートな性格として、ものがたりに登場します。女性が憧れるような女性像。そんなイメージをヤチダモは持っているのかもしれません。
この大テーブルは、根元部分に「玉杢」と呼ばれる、大小さまざまな玉のような模様と、「縮み杢」と呼ばれるが広がり、末と呼ばれる空の方へ近くになるに連れて、すっきりとした表情へと変化していくドラマを持っています。
根元部分が太くなっていることからも、傾斜地でしっかりと土台を作るために踏ん張っていたために、激しくその繊維を揺らしていたか、成長の段階で激しく体をよじって堪えていたことを彷彿とさせます。また、末の表情は一転、非常にシンプルで繊細で、迷うことなく天に向かって伸びており、「シンプルに生きることを貫徹している」、そんな印象を与えてくれます。
シンプルに思考すること。それは易しいようで難しく、苦労に直面したのちに、それはさらに難しくなります。このテーブルでは様々な問題、課題に対して、しなやかにそしてシンプルに思考することを、そっと見守ってくれるでしょう。